<<たまにはクルマの話しをしよう>>
私は多分にセンチメンタルな気性を持ちながら、世界中、どこでもステアリングを握って走り回るような面も持ち合わせていて、多分、この管理人室での「詩的」な言葉の群れからは想像できないような走りをする。クルマを走らせることは、言葉をあやつることと同じくらい私には楽しく、特に風を感じながら走るモナコは格別の物がある。
私が自分でステアリングを握らないのは唯一、イタリアだけだと思う。
特にローマはひどい。歴史が刻まれた石畳の道路に車線などなく、そこをまるで、F1のスタート直後状態の勢いで走り回る。おまけに昔ながらの道にはロータリーが多いのが常で、イタリアも例外ではなく、気の弱い者はいつまでもぐるぐるまわっているか、止ったまま輪の中に入れないか出れないかのどっちかになってしまう。
私はイタリアで運転しないのではなく、友人が私に決して運転させてくれないので、未だにこの国だけは自分で走ったことがない。多分、そのほうが自分のためでもあり、皆のためでもあるだろう。
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CAR GRAPHIC >
私は子供の頃から多分、絵本や童話よりもカーグラフィックを読んでいた時間の方が真剣で長かった。それは兄が創刊号からカーグラフィックを1号抜かさず買い揃えていて、それを私は片っ端から“復習”して読んだ。だから、簡単にヨッヘン・リントだのジャッキー・スチュワートが現役時代だった頃のエピソードが口をついて出て来るので、たいていの人はびっくりする。そして、びっくりさせておもしろがっている。
ある時、その話をしたら、
『カーグラフィックというのは男しか読んでないのかと思っていました』
と真面目に言われたことがあった。
昔のカーグラフィックの文章には、独特の美しさがあった。
それが今ではあまり感じられず、どちらかというと余りにもマニアックに突っ走しりつつあるところが残念で仕方がない。私個人の意見ではあるけれども。
<MONACO>
以前、プロフィールの中に
『モナコ自己コースレコード:3分21秒』
と書いていたら、
「コースを歩いたんですか。凄いですね」
というようなメールを貰った。
あのコースを3分21秒で歩けたら世界記録を遥かに追い越した競歩の世界記録になる。
ある時、私がこの自己コースレコードの話をフェラーリチームにしたら、呆れていた。
おまけに
『あそこは逆に走るほうがおもしろい』
と言い、終いにはシューマッハでも私は抜けないだろう、とまで言い始めた時は呆れ果てて返事もなかった。
私はアメリカ以外ではマニュアルシフトの車しか運転しない。
F1ですら半分オートマになっている時代に。
モナコグランプリのコースにある“タバコ屋コーナー”には、本当に小さなタバコ屋があって、店内に入ると歴代のチャンピオン達の勇姿が額に入れられて飾られていて、モナコグランプリとタバコ屋の歴史を垣間見ることができる。
私はもう前に進めない、これで終りだと思うような壁にぶつかった時にはモナコに行って走ろうと決めている。本当にそうできるかどうかは、別として。
<PARIS>
パリでは、道路に車の長さ+10センチのスペースがあると駐車する。
そのため、車を路上駐車する時は、サイドブレーキをひいておかないことが肝心。
なぜなら、前後の車に容赦なくぶつけて押しやって駐車するから。
その様子は、まるで満員電車で太ったオバサンがわずかなスペースにお尻でズリズリと割り込んで座ってしまうのに似ている。
<中村良夫氏>
中村良夫さんは、本田宗一郎氏がスパナを持って社員を追い掛けまわしていた頃、追掛けられていた人の一人で、私は中村さんの書かれるクルマの話を読むのが好きだった。
アイルトン・セナがいなくなった数カ月後、中村良夫さんもこの世を後にされ、大変残念なことの連続だった。
また、いつかクルマの話をしよう。
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